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「土橋康邦先生と相対論」

                    22期  尾高 一彦

学生気分が抜けないままにもう還暦である。幸せなやつだといわれればその通りである。それを許してくれた諸々の環境に感謝している。とはいえ、今は攻守所を代えて教壇に立っている。しかし、学生がお客様になった今、以前とは違い応援団は圧倒的に学生側に多い。応援団を凌駕できない私は、ただ日々学生指導に追われている。

ところで、「フクシマ」以来なにかと原子力が注目されている。原子力は「エネルギー(E)と質量(m)の等価性(E=mc2)」を基礎としている。この等価性の式は、相対論の一つの結論であり、高校の教科書はもとより、商業用ポスターにもアインシュタインの顔写真と共にしばしば登場する。「現代物理学は量子論と相対論からなっている。量子論は教科書にあるが,相対論は高校では教わらない。そこで、今から話そうと思う。」と切り出され、土橋先生(私は23年と担任をして頂き、物理も担当して頂いた。)が大き目の黒いルーズ・リーフを理科室に持って来られ、特殊相対性理論の講義をされたのは42年前、 福島原発が着工された頃である。今でも、相対論は高校では教えられていない。

だが、測定技術の発展は驚異的である。今まで、素粒子・宇宙論でしか使われることのなかった一般相対性理論(アインシュタインの重力理論)も、カーナビ(GPS)の重力補正を通し実生活に浸透している。この補正なくしては、日に11kmもの誤差が生じGPSとしては使えない。

教科書にない相対論が量子論以上に一般に受け入れられているのは、その実用性のためだけではあるまい。ふだん何気なく思う「時間の始めは? 空間の形状は? 宇宙はどうなるの?」といった疑問を、形而上の問題から力学と同じく観測を基盤とした科学にし、想像を超えた結論を示唆し、そして好奇心を刺激する。まさに科学の醍醐味を相対論は味わらせてくれる。一般相対性理論と最近十数年の観測データによると、先程の答えは「宇宙の年齢は137億年、形状は平坦で、膨張している。膨張速度は一時期減速していたようだが、現在は加速膨張している」である。重力は引力なので、互いに引き合い膨張速度が減速するのなら分かりやすい。しかし、加速するのはかなり不自然である。「なぜ加速するのか?」まさに百家争鳴、そう簡単には結論に至りそうにない。

さて、教育現場では高校大学接続教育がよく話題に上る。私には離乳食を与えるというイメージである。しかし、あえて固いものを咀嚼させ脳に刺激を与える方針で、1学年に、計算技術は高校レベルで、考え方は「時空の数値化と対称性」を全面に押し出して相対論を教えてみている。学生の授業アンケートによる評価が二分化するのはもとより覚悟の上である。学生諸君が、理解したかではなくどれだけ興味を抱いたか、相対論をあえて高校でご教授くださった土橋先生のお顔を思い浮かべながら、結果を楽しみに待っている。

気安く原稿は引き受けたものの、物理・教育がらみでないとなにも書けない相変わらずの無芸大食・無教養ぶりに恥じ入るばかりである。

(防衛大学校 応用物理学科・理論物理 教授)

戻る ※この記事は「航跡」第10号のために、編集委員が依頼したものです。
   印刷版発行が来年春になるため先行して掲載しています。 (2011年9月)